改正耐震改修促進法で旅館業界がヤバい

 来年度、耐震改修促進法が改正される予定です。今回の法改正、何がスゴいって、耐震診断を義務づけられた建物は、その診断結果を世間に公表されるところまでが法律で定められていることです。既に一部の建物で耐震診断を義務付けていた東京都条例においても、公表される内容は「義務に違反して耐震診断を行っていないこと」に留まっていましたが、この法改正は都条例から更に踏み込んだ内容になっているわけです。

 この法改正で、耐震診断を義務付けられるのは、次のような建物です。

  1. 大規模(床面積5,000m2以上となる予定)な物販店、飲食店、ホテルなどの不特定多数の者が利用する建物
  2. 大規模(床面積に関わらず対象となるという報道もある)な病院、学校、福祉施設などの避難弱者が利用する建物
  3. 自治体が定める特に重要な避難路等の沿道にある、倒壊すると道路を半分以上閉塞する恐れのある建物

 都条例で診断が義務付けられていた建物はこの3番目に該当します。従って、これらの建物も診断結果の公表は避けられないと思われます。

 耐震診断の結果が公表されることが、どれだけスゴいことなのか、不動産にあまり詳しくない人にはピンと来ないかもしれません。これまでのルールは、旧耐震基準の建物を買ったり借りたりする時に、重要事項説明という書類の中で、耐震診断をしていればその結果を買主・借主に伝えなければいけない、というものでした。 従って、仮に耐震性が低かったとしても、そのことを知るのは不動産を売買・賃貸する当事者だけで、彼らは耐震性が無いのを知っていて安く買ったり借りたりしているので、まあそれは仕方ないことだから、診断が義務化になったくらいなら、とりあえず耐震診断だけは済ませよう、と考える建物所有者がほとんどだったと思います。

 ところが、診断結果が一般に公表されてしまうと、客商売をしているテナント自身の業績にも影響してきます。そのためテナントは旧耐震建物を敬遠し、空室率は上がり、建物の収益性は低下する一方なので、所有者は何らかの手を打たざるを得なくなります。また、企業であればコンプライアンスを問われることとなります。お客様の安全を軽視している企業と後ろ指を指されたくなければ、耐震化に踏み切らなければいけません。

 このように、この法改正において世の中に知られなければいけないのは、「診断義務化」ではなく「診断結果公表化」なのです。ところがこの点に言及している報道はほとんど見られず、最近だとダイヤモンドオンラインでちょこっと記事になった程度です。

 

 さて、この法改正の影響が大きいのは、ホテル業界ではないかと思っています。現に全旅連という業界団体は猶予期間が短すぎるのに補助の割合が低くて、こんなもの対応できない、業界が死んでしまいますと声明を発表し、自民党の観議連という族議員?たちもこの声明を援護すべく国交省を呼び出しましたが、「診断は期限付きの義務だけど、公表する時期はまだ決めてないし…」と微妙なフォローをされた程度で終わってしまいました。

 診断義務の対象となるホテルは、高度成長期に多くの団体旅行客を受け入れられるよう開業したり増築したりしたホテルなんじゃないかなと想像しています。そうしたホテルの場合、団体客の減少で稼働率がぐっと下がっていると思われるので、今回の診断結果公表を機に、減築によって耐震化を図るのがベターなのではと思います。この際部屋数を減らして稼働率を上げ、オペレーションの改革を同時にしてしまったらどうかと。ホテル業界ド素人の私が経営のことに口出ししてみても、まるで説得力は無いのですが、少なくとも耐震の方面からは、そんなアドバイスができます。

 もっと問題なのは、更に古くからある旅館で、増築を繰り返しているような場合です。おそらくRCとSとWの混構造で、ほとんどの設計事務所が耐震診断したくないような、複雑怪奇な構造と形状をしていると思います。こうした耐震診断自体が不可能な物件の場合、建替えるしか耐震化する方法はありません。歴史に名を残す名湯秘湯旅館が対象だったりすると、そのうち解決策の無い根深い問題に発展するかもしれません。

 とりあえず耐震診断自身は、自治体がさっさと法改正後に要綱改正すれば、おそらく100%の補助金が出る予定なので、診断結果公表対象のホテルオーナーの方は、まず設計事務所やゼネコンに、うちのホテルは耐震診断可能な建物なのか、可能ならば診断費用はいくらぐらいになるのかということを、法施行までに確かめておいた方がいいと思います。

 せっかくなので、これは大変だと思われたなら私自身の本業にてご相談を承ります。が、現状このブログでは、TwitterでDMを送ってもらうくらいしかこっそり連絡を取る手段がないことに気づいたので、ちょっとメールフォームなぞ設置してみようかと、思ったのでした。