2023世界平和経済人会議の内容が面白そうだったので聴講してきた。これはHOPeという組織が主催者なんだけど、知事も気合い入れて登壇してるので、要するに広島県が主体の事業だと理解している。
被爆当事者亡き後の、非当事者でありながら平和都市ひろしまの市民たる我々が発信すべき「平和」とはなんぞや、というのはここ数年折々で考えることがあるが、ロシア戦争を契機に一層そんなことを考えるようになった。
それで今回のこの会議でのセッションは2つ、「平和における情報の重要性と情報企業の果たす役割」「経済の武器化にどう向き合うか(エネルギー、食料など)」ということであった。東京の経済同友会の方々が名を連ねている。しかし今日は広島経済同友会の総会の日だ。どうしようもないけど、よりによって今日この2つがバッティングするのか。
ヒルトンの芦田川で開催とのことだったが、芦田川ってそんな広い会場じゃないよね?と思って行ったら、会場で聞いてる人は思った以上に少なかった。オンライン併用とはいえ、これだけのパネラーを呼んで、この話を聞いてみたいという人がこれだけしかいないのかというのが衝撃だった。各方面の方々は、知事主導だからとかそんな体面を気にしないで、この機会を有効に使うべきだろう。
セッション1 平和における情報の重要性と情報企業の果たす役割
モデレーターに東工大の西田先生、パネリストに慶応の村井先生、ルース元米国大使、スローニュースの瀬尾さん。正直誰も存じ上げなかったけど、村井先生は日本のインターネットの父と言われる先生だったり、ルース大使は初めて広島平和記念式典に参加した米国大使だとか、すごい人たちばかりだった。
ロシア戦争では、国家以上に影響力を持つグローバル企業たちが、ロシアをインターネットサービスから切り離していく姿を見て、国境を簡単に飛び越える経済の前に、国家で争うことって何なんだとか思ったりしたが、このセッションではそれ以上に色々な話題が出た。印象的だったものをいくつか。
- ロシアをインターネットから締め出せという意見もあったが、インターネットの基礎的な仕組みはもはや人類にとって酸素のようなもので、それを止めることはできない。その仕組みの上で運営されている情報プラットフォームサービスとか、その部分での対策はやりようがあるけれど。
- アメリカは職業の流動性が高いので、民間と政府の関係性についても、ジャーナリズムについても、行ったり来たりすることで互いの協力関係や、監視機関としても良く働く部分がある。日本はこうした流動性が低いので、連携がとれていなかったり、一面的な視点になるところがある。
- 日本はメディアの監督官庁が無い。(総務省は放送電波のみということか。)それ自体はジャーナリズムにとってはあるべき姿だと思うが。現在、安全保障という側面から内閣官房で議論されているが、情報統制と表現の自由という相反するところのバランスを誰がとっていくのか難しい。
- 日本の外国のカルチャーを何でも飲み込んできた寛容さが、今後世界における日本の立ち位置として重要になってくるかもしれない。
議論の中で、リテラシー教育ということと、エシカルな選択という話題が出たことがあった。このセッションはプラットフォーム側の社会的責任みたいな立ち位置だったはずなのに、リテラシーとかエシカルというのは、その最終判断をエンドにさせるということであり、公助共助の話してたはずなのに結局自助かよ、というような感じがした。いやリテラシーもエシカルも重要だと思うけど、今日の議論はそこに行っちゃいけないんじゃないと思った。
他方、日本人が持つ「寛容さ」というのはその通りで、これが平和都市広島がこれから体現すべきことなんじゃないかなと思っている。以前、統一教会の関連団体があちこちに入り込んでるというニュースがあった頃、ある有名なお寺の人に、寺の威光を借りて何か企てる変な人もいると思うんだけど、どうやって変な人を排除するのか?と聞いたら、そこに判断を加えると却って大変なことになるから、もう排除せずに全て受け入れるんだと答えられて、なるほどーと思ったことがあった。
「平和だからこそエシカルになれる。平和でないと寛容になれない」とセッションの最後にメモをした。
セッション2 経済の武器化にどう向き合うか(エネルギー、食料など)
モデレーターはオイシックスの髙島さん、パネリストはJSRの小柴さん、東大の鈴木先生、国際環境経済研究所の竹内さん。食料、半導体、エネルギーの専門家と国際政治の先生という組み合わせだ。
経済安全保障という言葉が、米中の緊張かやロシア戦争を通じて急速に注目されることとなったけど、そこに対抗しようと思ったら、国家に左右されないぐらいグローバル・デジタル企業になるか、ドメスティックな安全性を高めるかであって、このセッションは後者の方を中心に話題が進むんだろうなと思っていた。
個々の話はそれぞれためになったんだけど、それぞれが国家レベルの話をしていて、それをこの広島で論ずることに何か意味があるんだろうかと思ってしまった。ただ、この話の行き着いた先が、どんなに国内自給率を高めたところである程度海外に依存していかなきゃいけないのは自明で、アメリカは政府としては中国を縛ろうとするけど、一方でビジネス界は中国でもバリバリ仕事している。日本の経済人はそのようなしたたかさ、アニマルスピリッツ(本能、野性ってことだろう)が足りないという話になって、それは面白かった。
せっかく国内自給率とか、ドメスティックな方向を向くなら国家レベルの話ではなく、地方都市・地方行政ができる舵取りがあるのではないか、それをこの平和都市広島でやっていきましょう、という議論をすべきではないかと質問しようと思ったが、時間いっぱいで終わってしまった。残念。
「平和都市=ドメスティックなビジネスがしっかりできあがっている都市?」と最後にメモした。
2つのセッションを聞いて、各界の第一人者が広島に集まって、最先端の議論をしてくれるのは貴重で有意義な機会だったと思うが、それをただ広島でやった、というだけなのはもったいないと思う。広島が真に平和都市になるために、各界の有識者の知見を集めて提言をもらって、それを実行していくんだという会議になれば、この会議が言いっぱなしで終わらず、県政をも左右する会議として意義深くなると思うんだけどなあ。
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