イカ釣り漁船、漁火の変容。

 燃料価格が高騰して商売にならないと、漁船が一斉休漁したことは記憶に新しい。その折に「休漁する前に自分たちが燃料を無駄に使っていることを見直しては?」という視点で次のような記事が配信された。

イカ釣り船に無駄使い、空からお見通しです:NBonline(日経ビジネス オンライン)


 仮にこの記事で言うように集魚灯に傘をかけてエネルギー効率を高めて、海面以外へ光が漏れないようにしたらどうなるか。「漁火の風景」という日本の伝統的な景観が失われることになる。辺りを煌々と照らす漁火は、漁をしない人にも親しまれてきた側面がある。

北浦百景 漁火光映の日本海
風を感じる~愛する風景 : 漁火
棚田と漁火 その2 Photo ScrapBook/ウェブリブログ

 たしかに、イカ釣り漁船の光量はある時期まで競争的に明るくなっていた時もあるらしい。次の記事はいつ書かれたものかわからないけれど、こんな記述がある。

このイカを釣る電球を遠くから見ると、漁り火と呼ぶことになるんですが、ここで注意しないといけないのは、この電球の明かりは決っしてイカを集魚しているわけではないということです。・・・あくまで、針を光らせているだけなのです。そこで問題なのはこの電球の明るさなんです。10年くらい前までは薄暗く風情のある電球を灯していたのですがここ最近ではそれが急速に明るくなってきて、これが異常なまでになってしまいました。このことを函館市役所水産課にぼくの友人が問いわせたところ、これでも一時期の光量競争の反省の結果、光量を落としているというのです。それにしてもどんな反省をした のか今でも恐るべき明るさは変わらず、夜の津軽海峡に行くとまぶしくて目も開けられないほどになっています。

(引用元:いか&漁り火について 一部省略、下線部強調は筆者による)

 それではイカ釣り漁船がエネルギーに全く無頓着なままだったかというと、そんなことは全然無い。現在の集魚灯の主流であるメタルハライド(メタハラ)灯を青色発光ダイオード灯に代替しようという試みが行われている。2005年あたりから各所で実験が始められて、新聞記事にもなったようだ。

県水産試験場(境港市)は今月から、発光ダイオード(LED)を使った集魚灯で
白イカ漁をする実証実験を始めた。

県内では初めて。原油価格の高騰で漁業の生産コストが上昇する中、
エネルギー効率の高いLEDを活用して漁業者の負担軽減につなげるのが狙いだが、
沖合に浮かぶ漁(いさ)り火が見られなくなるかもしれないという。

新しい集魚灯は、LED324個を取り付けたパネル(18センチ四方)12枚を組み合わせた。
パネルは8枚が青色で、残り4枚は白色。県漁協境港支所所属の小型イカつり漁船、
民(たみ)丸(全長9・15メートル、3・15トン)に搭載し、
境漁港から5カイリ(約9・2キロ)ほど沖合の日本海で操業する。

実験は今月中に15日ほど実施。パネルの設置位置や照射方法の検討
▽投入電力当たりの捕獲数の調査▽青色と白色の集魚効果の比較――などが目的だ。

(朝日新聞:元記事リンク切れ、2ちゃんねる過去ログ(2006.08.05)より引用)

 現在のところ、LEDによるコストは大幅に減った(年間200-300万、従来比1/30くらいらしい)が漁獲量も減って、バランスが難しい、という感じらしい。その他LEDは電球からの放射熱や発電機の騒音も大幅に減らすことができ、労働環境も向上するといった効果もある。

 青色LEDの普及によって漁火の風景に風情が無くなるといった声もあるが、僕はそうは思わない。何処かの漁団がいちはやく青色LEDに切り替えたとすれば、海岸線に点在する青色の漁火はこれまでには無い現代的な風景を作り出すことになるだろう。そして赤い炎の漁火が白い電球の光に替わった時のように、青色漁火の風景はやがて定着していくはずだ。

 さて、青色LEDに関して言及しているブログを読んでいたら、気になる記述が。

まず、なんでイカ釣り漁船はあんなに電気を付けてるかというと
イカは光が好きで集まってくるわけではなく、その反対。

イカは光が嫌いらしいので
イカの集まってるところで電気を付けると
船底にできる暗い影の部分に移動する。
そこを一網打尽しているというわけ。

 もしそうだとすると、競って集魚灯の光量を高めていたことも頷けるし、集魚灯に傘を被せるというのは漁法を理解した上での提案なのかやや疑問が残る。海面以外を照らす光は、漁法にとって必要なものなのではないだろうか。