新聞を見ていたら、廿日市のホールで「父と暮らせば」が上演されるという。広島と被爆がテーマであるこの有名な芝居を一度見てみたかったので、いいチャンスだと思い見に行った。
実は「父と暮らせば」との出会いは高校生まで遡る。演劇に興味を持ち始めた頃だったか、図書室で「父と暮らせば」の戯曲本が目に留まり、借りてみた。その時にこの話は広島と被爆がテーマだということは知ったのだと思う。読んでみると、話がどうこうというより、戯曲本がとても読みにくい。小説に比べてト書きでいちいち話が止まる。そんなわけで、どんな話かよくわからないまま読むのをやめてしまった。
大学時代も、新宿南口の紀伊國屋によく通っていたので、そこでサザンシアターのこまつ座公演のポスターをよく見ていた。「父と暮らせば」のポスターも見ることがあったが、戯曲本の取っつき悪さから公演は遂に見ることはなかった。
今年、キャラメルボックスの40周年公演を大阪で見ていたときに、そういえば被爆80年なんだからこまつ座も「父と暮らせば」を再演してるのではないかと検索してみたら、なんとたまたま同じ日にこまつ座が山口で公演していた。またすれ違ったと思っていたところにこの新聞記事を見かけたので、これはもう運命だ、見に行くしかないと思った。
ようやく芝居を見て、お話の全貌が分かった。被爆を経験した女性と、その父親の幽霊の二人芝居。やがて彼女にもいい男性が現れるのだが、どうしても彼女は距離を縮めることができない。そこには自分だけ生き延びてしまった、自分だけが幸せになるわけにはいかないという生き残ってしまった者の苦しみと、娘の幸せを願う父の幽霊の気持ちがぶつかる、そういう話だった。
芝居の方は、父役の佐藤正和さんの演技はとても陽気な父親で、もっと静かな芝居をイメージしていたのでだいぶ驚いたが、後半もそのパワフルさのまま熱演されていた。対する娘役の中薗菜々子さんは、早口で長い台詞を好演されているのだけど、どうも声が弱々しくて台詞が聞き取りにくい。これはアフタートークで今日の舞台は声を枯らしてしまっていたというのがわかった。ただその結果、父と娘のボリュームが違いすぎて、父は娘をフォローするためにますます声量を上げたのかもしれないが、ちょっとストレスを感じてしまう芝居だった。
何はともあれ、こうの史代の「夕凪の街 桜の国」のような、そういう戦争の悲しみは戦争が終わっても終わらない、というような話で、いつまでも上演される芝居であってほしいと思った。

